なぜ「ビックボス」は注目されるのか

2月1日から、
プロ野球のキャンプが始まりました。

最近、
テレビ番組や雑誌などのマスメディアから
私が話し方分析をよく頼まれるある方も、
キャンプ地である沖縄に
「真っ赤なド派手なコート姿で沖縄入り」と
報じられていました。


出典:JIJI.COM https://www.jiji.com/jc/article?k=2022013000301&g=spo

そう、
「ビックボス」こと、日本ハムファイターズの
新庄剛志監督です。

去年のオフシーズン、
プロ野球界で最も報道された
人物と言っていいでしょう。

「プロ野球監督」という同じ肩書の方は
他にも大勢いるのに、
なぜビックボスだけ
こんなに話題になるのでしょう。

それは、
話し方から分析すると
人をひきつけるスピーチ術を
使っているからです。

今日はその中から
わたしたちがマネできるポイントを4つ
お伝えします。

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カリスマ性を作り出す4つのレトリック
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なぜ「ビックボス」は注目されるのか。

まずはもちろん
見た目やパフォーマンスで
話題になっているという大前提があります。

選手時代は主に
赤色のリストバンドを着用していた新庄氏。
このことについて、2001年に出版された著書
(『ドリーミングベイビー』光文社刊)で、
以下のように語っています。

「タイガースに入団したときから、
 自分は赤でいこうと思っていた」

「『なんだ、あの赤いヤツ?』
 というふうにして、
 僕のことを覚えてもらいたかった」

こうした発言からも、
表現についてかなり戦略を
立てている方とお見受けします。

加えて、
実はビックボスは、専門的にいうと
「レトリック」という
古代ギリシア時代から続く
人をひきつけるスピーチ術を使っています。

バラク・オバマ元米国大統領や、
スティーブ・ジョブズ元アップルCEO、
小泉純一郎元首相、
前回のメールでご紹介した豊田章男
トヨタ自動車株式会社代表取締役
といったスピーチの名手も行っている方法です。

「レトリック」のうちビックボスがよく使う
4つの代表的なテクニックをご紹介します。

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1. 造語力
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新しい言葉を作る=造語することで、
注目を集めることができます。

キャッチコピー的にオリジナルの言葉を
使うことで人々の印象に残り、
口コミで広がりやすくなるのです。

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造語例1)「ビッグボス」
「監督って皆さん呼ばないでください、
ビッグボス!ビッグボスでお願いします」
(2021年11月4日 監督就任会見より)
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◇球団より配信された監督就任会見
https://bit.ly/3nZCpkM
こちらの15分05秒あたりです。

この会見において
メディアの前で初めて「ビッグボス」
という言葉を使いました。
「監督」ではなく、「ビッグボス」という
新しい呼び方を「造語」したわけです。

さらに
「ビッグボス!ビッグボスでお願いします」と
「ビッグボス」を2回繰り返し、
強調することも行っています。
「反復法」ですね。

この会見以降、ビッグボスという言葉は、
あっという間に新庄氏の愛称として
定着しました。

Wikipediaによると、新庄氏の言葉は、
日本球界に復帰した2004年(「新庄節」)と
現役引退をした2006年
(「SHINJO」「新庄劇場」)に、
「ユーキャン新語・流行語大賞」に
ノミネートされたとのこと。

新庄氏は
もともと造語のセンスがある方なのでしょう。

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造語例2)「楽しんじょう」
(2021年12月5日 新入団選手発表より)
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◇球団より配信された新入団選手発表
https://bit.ly/3r1X9u7
こちらの18分57秒あたりです。

新人選手へかける言葉を記者から問われ、
即答したのがこの言葉です。

「楽しむ」と自分の名前を合わせた造語
「楽しんじょう」は、
自身の日めくりカレンダーのタイトルにも
採用されています。
(『まいにち、楽しんじょう!
新庄剛志の開運BIGBOSS』集英社刊)

出典:https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-907090-1

 

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2. 逆説法
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伝えたい言葉と反対の言葉を使って、
本来伝えたかった言葉をより強く伝える
方法です。

意外性のある言葉により、
聴き手に「えっ!?」と思わせ
興味をひきつけることで、
その後の内容がより印象深くなります。


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例1)「優勝なんか、一切目指しません」
(2021年11月4日 監督就任会見より)
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◇監督就任会見
https://bit.ly/3nZCpkM
こちらの12分03秒あたりです。

まず「優勝を目指さない」という
意外性のあることを発言し、注目させます。
その後に一日一日の積み重ねの先に
優勝があるということを伝え、
逆に「優勝」を印象付けています。

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例2)「コーチの言うことを、
ちょっと聞かないでほしい、1年目は」
(2021年12月5日 新入団選手発表より)
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◇新入団選手発表
https://bit.ly/3r1X9u7
こちらの19分23秒あたりです。

こちらも
まずは意外性のある発言でひきつけます。
ただし、「1年目は」という
倒置法で付け加えた一言がポイントです。

2年目からはしっかりコーチの言うことを
聞かなくてはならないという
メッセージも暗に込められています。


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3. 対句法
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似たような言い回しを重ねることで、
意味を強調する方法です。

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例1)「これからは顔を変えずに
チームを変えていきたい」
(2021年11月4日 監督就任会見より)
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◇監督就任会見
https://bit.ly/3nZCpkM
こちらの8分20秒あたりです。

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例2)「(監督が)もう僕でいいのかなと
いう思いの反面、僕しかいないな」
(2021年11月4日 監督就任会見より)
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◇監督就任会見
https://bit.ly/3nZCpkM
こちらの9分10秒あたりです。

このような対句法を使った新庄氏の言葉は
詩的ですらありますね。


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4. レトリカル・クエスチョン
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聴き手に回答を求めているわけではないが
質問をする伝え方です。
疑問形にすることで
意味を強める効果があります。

スピーチに聴衆を巻き込むことができるため、
政治家も演説でよく使う手法です。

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例1)「暴れても良いですか?
感動させても良いですか?
泣き笑いさせても良いですか?」
(2021年11月30日 ファンフェス2021より)
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◇ファンフェス2021
https://bit.ly/3qZR7KD
こちらの2時間59分50秒あたりです。

それぞれの疑問形の後に
聴衆が反応する「間」をとっているのも
さすがです。
この間の効果も加わり、
ファンは大いに盛り上がりました。

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以上、
なぜビッグボスがこんなにも
メディアで話題になるのか
私なりの分析をご紹介しました。

今回、ビッグボスの伝え方を研究するうちに
彼が自分と同じ長崎県出身であることを
知ったこともあり、
親近感を感じてしまいました。

そして、
ビックボスが次はどんな発言や行動をするのか
メディアの報道を楽しみに
注目するようになりました。

もし人をひきつけるために
意図的に考えられた戦略的な伝え方であるなら
まんまとはめられた私です(笑)

「造語力」「逆説法」「対句法」
「レトリカル・クエスチョン」
という4つのテクニック。

これらのスキルは、
わたしたち誰でも真似をすることができます。
カリスマ性(話題性)は才能ではなく、
こうした話し方で作れるのです。


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あとがき
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今回も最近読んだ書籍からのお話です。

『挑戦 常識のブレーキをはずせ』
藤井聡太/山中伸弥(著)講談社刊


出典:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000360902

10代で四冠達成という史上初の偉業を
成し遂げた棋士・藤井聡太氏と、
2012年ノーベル生理学・医学賞を受賞した
京都大学iPS細胞研究所の所長・
山中伸弥氏という豪華な組み合わせの対談を
本にしたものです。

このなかで、山中先生が
プレゼンテーションにおける情報発信について
こう述べておられます。

「ただ発信するだけじゃなくて、
 やっぱりメッセージを常に伝えたい。」

プレゼンテーションが
情報の羅列で終わってしまい、
独自のメッセージがないのは
日本の伝え方の残念な特徴のひとつ。

アメリカ留学時に
プレゼンテーションについて学んだ
山中先生ならではの言葉ですね。

あなたのプレゼンテーションも
ただの情報発信で終わっていませんか。
メッセージも入っていますか。
今一度チェックしてみてください。

「人を動かす」「思いを伝える」
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2022年2月4日